< 方針管理で飛躍的革新 | 客観説TQM
  • 古典品質管理からの脱却

方針管理将来の経営環境を想定し、それに見合った企業のビジョン(未来像)を描き、経営陣が中心になって飛躍的革新(inovation)を推進する活動である。

大掛かりな改善活動のゆえに失敗は許されず、研究期間として3~5年の長期計画を立て、メド(目標)が立った時点で年度計画に切り換えて実現を図る。

失敗が許されない一発勝負であり、CDPA(or PDCA)管理サイクルを適用せずに十分な研究機関を設けて石橋を叩く特徴がある。

緑線

総合目次

はじめに

管理職からメール

1. 大改善と小改善

2. 長期方針

3. 方針展開

4. テーマストック

5. 年度方針

はじめに

方針管理とは、経営者が中心となって飛躍的な躍進に挑む活動をいう。この総論では反対説はなく、見解は一致している。しかし、その進め方について、主観説と客観説では水と油ほどに意見が異なる。

 

一般に説かれている主観説では、

  1. 経営者は、理想を掲げて旗を振り、具体策の立案と実行を下部組織に押し付ける。
  2. 経営者は、「トップ診断」と称して批判するだけで自らは何もしない。
  3. 下部組織は、データの捏造やウソ話で逃げ切る。
  4. 部長・課長は、上と下の顔色を見て「保身管理」をする。
  5. 目標管理は、「挑戦の約束」を「実現の約束」にすりかえるトリックである。
  6. 毎年、以上の同じ失敗と体裁重視を繰り返す。

 

~とまさに「最悪のシナリオ」に陥る。正しい方針管理は、こうはならない。従来の指導のどこが間違っているのか。このページでは、このような問題を考えていこう。

ある管理職からのメール

有名企業の管理職からお寄せ頂いた感想文である。

ホームページを拝読し、まさに目から鱗です。同時に奥につかえていたものが取れた感じがします。 開発にしろ、ISOにしろ、中期計画にしろ、事業活動そのものにしろ、まず「目標」の意味を理解していないことが、そもそもの間違いだと分かりました。安全にしろ、環境にしろ、経営にしろ、数値「目標」があり、それに向かって計画を立てる。実現可能か不可能かは問わず、です。

中期計画にしても、経営陣の数値「目標:何年に営業利益○○円」に対し、各部署で「数値」の積み上げ、さらには各部署も具体的な行動計画までに落とし込まずに、この客先に○○トン売るといった計画です。

昔から疑問に思っていました。中期計画で描いた「計画」通りに5年後になったためしがない、しかも計画の1年目から、中期計画に向かって行動した実績も見当たらない!

前述の育成の一環の話、「自ら考えることで経営感覚を身に付ける」ことを目的にしているらしいですが、その「経営感覚」を現在の経営層が持っているのか?という疑問まで持ちました。

コメント:
目標の意味を考えずに、むやみに設定することの弊害を訴えた感想文のように見受けます。実現可能かどうかを問わずに高い志だけで目標を設定して邁進しても、所詮、実現可能性のない目標なら実現しないことを多くの実務者が体験することである。

1. 大改善と小改善

1.1 大改善

1.2 小改善

1.3 目標の設定

1.4 目標の条件

・投機的活動

・ユニクロの成功

1.1 大改善の特徴

「大改善」とは、失敗すれば大損害になる改善活動をいう。例えば、
・大金を投資し、失敗すれば投資を回収できない場合
・失敗によって生命・身体・経済的に大損害を被る場

方針管理は革新的な改善であるから多くに場合に高額の投資を要し、「失敗してもいいからやってみよう」というアプローチを採用しない。すなわち、失敗が許されない改善活動である。失敗が許されないとなれば事前に失敗しないための研究が必要になり、研究の結果「これで行ける」という手段と成果を見極めてから本番の活動に移行する。


方針管理では、

事前の研究計画として「長期方針」を設定する。3年~5年の研究期間を設け、成功のメドが立ったら目標を設定して「テーマストック」という改善策の在庫にする。

本番の改善活動として、「年度計画」を設定する。テーマストックの中から選定した改善策に基づいて目標を設定し、活動計画を立てて実行する。

・研究段階では失敗が許され多くの場合にCAPD(or PDCA)サイクルが行われるが、本番では失敗が許されず一発勝負になる。従って、本番ではPDCAサイクルは採用しない

 

以上のように、方針管理の特徴として次の特徴がある。
・事前の研究に基づいて手段が分かっており、
・本番で目標が設定され、
・活動計画を立てる。
・本番では、CDPAサイクルを採用しない。

 

1.2 小改善の特徴

「小改善」とは、失敗しても損害が少ない改善活動をいう。例えば、QCサークル活動のように、
・少出費であるため、失敗しても損害が少なう場合
・失敗によって生命・身体に損害を生じない場合

 

言い換えれば、「失敗してもいいからやってみよう」という方針の下に行う改善活動である。この場合は一発勝負ではなく、PDCA(or PDCA)サイクルを採用する。これは「試行錯誤」とか「七転び八起」とも呼ばれる。

 

PDCAサイクルとは、次のような改善ステップを指す。

  1. 何か有益な処置の仕方を計画し(Plan)、
  2. その計画を実施し(Do)、
  3. 結果をチェックし(Check)、
  4. 問題があるなら、さらなる処置の仕方(原因・対策)を検討する(Act)。
  5. その処置の仕方を計画し(Plan)、
  6. その計画を実施し(Do)、
  7. 以下、問題が解決するまで、あるいは策が尽きるまで繰り返す(下図参照)。

PDCAサイクルの原理図

これは、結果情報をフィード・バック(Feed-back)する活動タイプになる。


(注)新たに業務を開始する場合は、Planから始まってPDCAサイクルとなるが、既に稼働している業務を改善する場合は、Checkから始まってCAPDサイクルとなる。しかし、両者ともPDCAサイクルと呼ぶことが多い。

 

PDCAサイクルには、いくつかの条件がある。

  1. 失敗したらやり直せばよいという「七転び八起」のやり方だから、失敗が許される場合に限る。
  2. 事前に深い研究はせずに、トライ・アンド・エラーを繰り返すやり方。
  3. 出費の少ない小改善を積み重ねるやり方。
  4. 何回のPDCAでどこまで成果が上がるか見当がつかず、計画も目標も立たない。

 

これらの特徴を眺めると、PDCAは日常管理(小集団活動、QCサークル)、及び、方針管理の前段階の実験に適するが、方針管理の本番には向かない行動原理であることに気が付く。しかし、正しく理解されていることは極めて稀で、専門の学者ですら多くは「方針管理はPDCAによって成果が保証される」と全く誤った説明をしている。
(→ 学界の現状)。

 

では大金を投資するなど、失敗すれば大損失となる方針管理ではどのような活動原理をとるのか、次の「目標の設定」に進もう。

1.3 目標の設定

目標の設定とは、投資金額・期間・改善効果などをデータに基づいて事前に決めることである。つまり、フィード・フォワード(Feed-forward)の行動形式である。

 

別の言葉で説明すると、
・目標とは、「的」のことである。
・目標の設定とは、「的に狙いをつけること」である。
・的に狙いをつけるには「狙うための手段」を持っていて、その手段によって狙うことである。

 

我々は、
・こういう成果を出したい、
・費用はこれぐらいに抑えたい、
・納期はこれぐらいにしたい、
~というような願望を抱くことがある。

しかし、これは目標ではなく文字通りの願望である。そのことは「200歳まで生きたい」、「億万長者になりたい」と思っても願望に過ぎず目標にはならないのと同様である。願望と目標の差は、実現の手段を持っているかどうかの違いである。

 

なぜ、目標を設定すれば好都合か?

大金を投資する活動とか、失敗の許されない重大な活動の企画があるとする。「失敗されては困る」と誰しも思うはずだから、「PDCAを回してみて、失敗なら再検討する」との説明では納得しない。どうであれば納得して貰えるかというと、次のような条件が浮かび上がってくる。

1.4 目標設定の条件

1.4.1 三つの要件

次の条件を満たさないと失敗の危険があり、大規模な方針管理は不可能である。

  1. 目標通りの投資額、期間、効果になる蓋然性の証明
    目標というのは、効果だけでなく、投資額・期間についても必要なのです。これらが目標通りに実現する確からしさ(蓋然性)がデータで証明されなければ、当てにならないということです。
  2. 手段の最善性の証明
    さんざん出費と時間をかけた後で「もっと良い手段が他にあった」とならないためです。
  3. 投資額が許容できる採用可能性の証明
    出せる範囲内の投資額でなければ、その方法は採用できない。

 

以上の条件を満たす方策を発見したら、思い切って “Go!” を出すことができる。逆に、これらを1つでも満たさないと頓挫の危険がある。ここで「証明」が求められるのは、単に「うまくいくと思います」と感想を述べる程度の蓋然性では大金の投資は承認されないことを意味する。

 

目標が設定されれば成功を確信することができ、大改善の関係者(投資する者、結果を享受する者、活動を実行する者等)が協力を決断することができる。逆に、目標が立たなければ成功がおぼつかないから、大改善の関係者にとって危険信号になる。

1.4.2 投機的活動との違い

大金を投資する事業で、目標設定に必要なデータがない場合、経営者が取る道は3つある。

  1. 危ないことには手を出さない。
    安全な道ですが、変化の激しい世界で競争に打つ勝つ経営は望めない。
  2. 危険を覚悟で踏み切る。
    このような投機的な活動は、天才的なひらめきや幸運によって大当たりをすることもあるが、繰り返すうちに潰れるであろう。従って科学的なアプローチとしての方針管理では扱わない。
  3. PDCAで小規模な実験をして、見通しが立ったら目標設定に踏み切る。
    これが方針管理で会って、模範とすべき次のユニクロの事例がある。

1.4.3 ユニクロの成功例

柳井氏ユニクロ(社長:柳井正氏)は「ヒートテック」の販売で、アパレル小売業界で一人勝ちしながら世界市場に進出した。しかし、その前に有機野菜の販売など8回の市場実験で失敗し、9回目の実験がヒートテックであった。

 

早く失敗して早く切り替えるやり方(PDCAサイクル)である。つまり小規模な「失敗してもいい実験」をPDCAでいくつか行って最善の手段を見出し、「よし! これでいける」との判断(=目標設定 )をしたのであって、願望=目標、ではなかったことが分かる。

2 長期方針

2 長期方針

2.1 長期方針の意義

・東芝の不適切会計

・国立がんセンター中央病院

・学界の現状

・実務の現状

2.2 方針の意義

2.1 長期方針の意義

方針管理が長期方針と短期(本年度)方針に分かれること、広く知られている。しかし、なぜ2つに分かれるのか、その意味を知る人は少ない。

武器を持たないある国の指導者が、軍備推進を企画したとする。技術も資源も持たない状態で、「本年中に巡行ミサイルを開発せよ」などと突然に命令しても成功しない。そこで、有識者と相談して長期方針を策定する。

長期方針とは「研究期間を示して、この願望を実現する手段を研究せよ」という指示である。従って、長期方針には「是非とも達成せよ」という願望は織り込むが、目標の設定はない。あくまで「その積りで研究せよ、その積りで頑張れ」というだけの方針(Policy)である。

ところが一般に、長期方針の意味を以上のように指導しないし、理解もしない。「3年の長期方針」のことを「何も研究せずに、3年後に着手していきなり達成する目標」だと誤解する。しかし、そのような計画で3年後にいきなり計画を進めようとしても、必ず失敗する。そして、翌年は「前年度の反省」を取り入れた年度計画にするというが、研究しないからこれも必ずつまずく。

2.1.1 東芝の不適切会計

その有名な事例として、東芝の不適切会計がある。

2015年に東芝が1520億円の過剰利益を計上した不正が発覚した。田中社長を含む3代の社長のもとで「チャレンジ」と呼ばれる高い業績目標を設定して、その達成を強迫するやり方で業績の装飾を行ったもの。

田中社長の釈明:「目標値にはきちんとした理由があり、各部門には実現可能なレベルで要請していた。」もしそれが真実なら、不適切会計には至らなかったはずだから全く釈明になっていない。

2.1.2 国立がんセンター中央病院

もう一つの事例を示そう(2008年2月15日 読売新聞の記事をP・D・C・Aに構成した)。

〔P〕国立がんセンター中央病院は、2005年に最新鋭の10億円を投じる手術室を計画した。

〔D〕この手術室は体内を鮮明に映し出すことができるMRIやCTなどを備え、「MRX手術室」と呼ぶ。通常の手術室の2.5倍の広さで、厚生労働省の産官学共同プロジェクトの一環で2005年夏、同病院9階に完成した。MRIなどを備え、「手術中に体内の状態を確認できる」のが利点のはずだった。

〔C〕しかし、メスが磁気で引っ張られて手元が狂う恐れがあって特殊素材を検討したがメスがすぐ切れなくなり、特注すると数千万円かかる。患者が横向き姿勢になる肺がん手術では、体がMRIに入らないことも発覚した。これまでに行われたのは手指の腫瘍を切除する手術などに限られ、患者が多い消化器がんや肺がんなどの手術は「MRIの必要性は高くない」(同病院医師)と、実施されていない。MRIは使わなくても磁場が発生し、通常の手術室としての使用も難しい。

〔A〕この結果に対し、どうアクションが取れるか? 取り壊して廃棄する以外にないが、それも膨大な費用がかかる。

 

上の事例では、PDCA管理サイクルではなく目標の設定を行うべきだったことが分かる。すなわち、

  1. まず、手術室の「要求事項」を決める。
  2. その要求を満たす手術室の開発に必要な研究期間、人材、研究費を確保する。
  3. 要求を満たす手術室の機能設計と信頼性設計を行う。
  4. 必要な初期投資額、建設期間、ランニングコスト、寿命、償却期間、手術室の機能、などについ、データに基づく目標を設定する。
  5. 設計審査において、最善性、投資限度、目標を検証する。

 

そして、十分な研究成果が出たら、それを短期(年度)方針の目標に設定するのです。逆に、目標が立たない限り、短期(年度)方針の目標に設定することはできない。

 

ところが従来の古典的な考え方では、方針管理はPDCAに基づくもので「まず、やってみて、まずい点があったら、反省して改めればよい」というやり方だ。ろくに検討もしないで実行し、失敗し、その結果は「反省」をしても改めようがない。学者は、そのことがなぜ分からないのだろうか?

 

上の国立がんセンター中央病院のような事例は、特に国や地方の行政機関が行ったプロジェクトに多く見られる。有名な夕張市の財政破綻、愛知川ダムの破綻など、枚挙にいとまがない。「方針管理=PDCA」論がもたらした実害は計り知れない。それでも、大学の研究者や大手の指導機関は、相変わらず「方針管理=PDCA」を唱えている。

2.1.3 学界の現状

方針管理に関する従来の典型的な記述を紹介する。

(1) 飯塚悦功(東大教授)から引用

方針とは、企業・組織がその目的を達成するために自らが進むべき方向を指し示したものであり、経営理念、 ビジョンを企業環境の変化に応じて具体化するために期日を定めて行うための活動指針である。方針管理とは、この方針を PDCAの管理のサイクルとして回すことである。
〔出典〕超ISO企業実践シリーズ3 『TQMの基本的考え方』
飯塚悦功・慈道順一共著 日本規格協会

 

ここに、古典品質管理が犯した重大な誤りをみることができる。我々のこれまでの検討によれば、次の通り。

  1. QCサークルのような日常管理の小改善は、計画し実施し、結果を見て、まずければやり直せばいいから、 フィード・バック(Feedback)方式のPDCA管理サイクルで行う。
  2. 方針管理の大改善は、研究段階では失敗が許されるからPDCAサイクルを行うが、本番の年度方針では一発勝負であってやり直しができない。本番はPDCAサイクルではなく、フィード・フォワード(Feed-forward)方式の目標設定によって結果の蓋然性 (確からしさ)と最善性を担保して行う。

 

ところが飯塚教授の考え方では、方針管理にフィード・バックを適用して「 PDCAサイクルを回す」という。10億円かけて失敗し、反省してまた10億円かけてやり直すものと考えている。

 

玉川大学の大藤氏のサイトも、品質管理における『管理』とはPDCAサイクルを事実に基づいて回すことです、と断言する過ちを犯している。

 

次は、山田秀:筑波大教授の見解である。

PDCA管理サイクルを発展させると、継続的改善という概念につながります。たとえば最初にPの段階で定めた目標が未達成であったとしても、適切な処置をとることで目標の達成が期待できます。従って、目標レベルを逐次高め、仮に目標が未達成であっても適切な処置をとることで、高度なレベルの目標が期待できます。

方針管理では、組織レベルの方針をそれぞれの部門での目標に展開するだけでなく、しっかりとPDCAのサイクルを回す必要があります。

 

なぜ、こうも次々と過ちを犯すのだろうか?
学者は先輩学者に学んで、さらにその上を行く理論を生み出し、それまでの疑問点を解消していくのが最小限度の義務だと思う。さもないと、進歩がない。他の学者の解説を読んでその初歩的な欠陥に気づかずに鵜呑みにして、過ちをそのまま自己の著作に掲載する学者もひどいが、これがわが国の品質管理の学者の実態である。

 

相互に批判し合う習慣がなく、間違いを次々と鵜呑みにして古典理論から脱却できない。「成功するのか」、「最善なのか」が不明のプラン(P)を実施して(D)、結果を見て(C)、まずい点を改めて将来に生かす(A)というのである。

 

しかし、大金を投じる計画で失敗したら反省しても損失を回復できない。E・デミングのPDCA管理サイクルが妥当な場合もあるが、それは 「失敗が許される場合」、すなわちQCサークルのような出費の少ない活動に限る。

 

学界がこれまで幾多の重要な誤りを繰り返した経緯を説明しよう。わが国は品質管理の分野で世界の指導的立場にあるように言われるが、実情は全く違う。

  1. PDCAサイクルは、W・シューハートやE・デミングが提唱し、それを無批判にわが国に導入したものだ。「管理とは、管理サイクルを回すことを言う」と、誤りを平然と記述する学者が多数いる。しかし、PDCA サイクルは失敗してもやり直しが可能な場合にしか使えず、方針管理には不向きだ。「実施してみて、問題があれば、行動を起こす」という点が、大改善には向かない。
  2. 目標管理の概念はP・ドラッカーが提唱し、それを我が国の各社が無批判に導入したもので、失敗して大損害を蒙った企業は多数にのぼる。目標の意味も設定手順も、粗雑な理論になっている。 これを見過ごしている学者の責任は重大だ。

2.1.4 実務の現状

(1) 他人に見せるための方針:
「他社から見ても恥ずかしくない、見栄えのする方針」をホームページに掲載し、株主総会で発表し、新任の社長が社員に発表するなど、体裁上の「高い目標」と「高い達成率」を競い合う「体裁上の発表」が横行する結果となった。

 

(2)成功例:
方針管理・目標管理で成果をあげた事例は多数あるが、それをもって正しい手順を踏んだとは言えない。なぜなら、手順がおかしくても企業に適当なテーマと優秀な人材が揃っていれば、ウソが多少混入してもそれなりの成果は出せるからだ。

 

活動手順を論ずるのは、その手順が「理論上」何を保証するかということだ。経験談とは別次元の話である。従って、方針管理に成功した企業の経験談を聞いても参考にならないことが多い。

 

一般に方針管理を導入しようとする企業の多くは、人材も時間も足りない。故に、方針管理論の真髄は「優秀な人材が揃っていない場合にどうするか?」という点にある。そこを考慮せずにノルマを(目標と勘違いして)押しつけるだけの方針管理論は、全く無価値だというべきである。

 

(3)導入・推進で遭遇する問題点:
方針管理を導入・推進する実務では、次のようないろいろな問題点に遭遇する。

  1. 具体策なき夢のような目標(不良ゼロ、原価半減)
  2. 具体性なき名目的方策(全社一丸となって邁進)
  3. ノルマの押し付け(下部組織への押しつけ)
  4. データのねつ造(下部組織は体裁を繕う)
  5. 反省なき経営者 (下部組織に対して反省を求める)
  6. 毎年、同じ過ちの繰り返し(PDCAだと誤解するから)

 

そうなってしまう原因(メカニズム)を検討すると、小集団の改善事例発表がウソ話になるのと同じ原理が働いていることが分かる。そこには、実務経験のない学者が唱える理論をそのまま受け入れ、自身で咀嚼しない習慣が障害になっている。

2.2 方針の意義

難しく考える必要はない。方針とは、政策(Policy)、すなわち、「今後、この方向に向かって経営の飛躍を遂げよう」という方向づけである。例えば、

  • 今作っている製品の売れ行きが好調だから、来年は工場を増設しよう。
  • 今の機種の売れ行きは精々3年しか持たないから、3年後に次期新機種を立ち上げよう。
  • 製品の故障を予防するため、本年度はFMEAを本格導入しよう。
  • 第3事業部の必要人員が減っているから、来年は第3と第4を統合しよう。
  • 5年後には、今の製品ラインアップに全自動タイプを追加しよう。

 

これらは、経営陣が描く方針であり、経営に関する展望・願望・政策である。これらの共通点を集約すると、

  1. 高額出費を伴うか、または重要な案件なので、失敗が許されない一発勝負である。
  2. 単なる願望であって具体的な細部は決まっておらず、すぐには実行できない。実行する前に、詳細な研究が必要。
  3. 具体的な手段が提示されず、成功するかどうか不明で目標が立たないことは明白。従って、今すぐに実行することはできず、いわゆる長期方針に該当する。

3 方針展開

3.1 方針展開とは

3.2 方針展開の具体例

3.3 方針展開の変更

3.1 方針展開とは

長期方針で「いつまでに、このようにする」と宣言するのは、目標ではなく政策である。「そうあって欲しいから、それに向かって皆で頑張ることにした」という政策である。

 

具体的な方策が分かっている訳でもなく、現在保有する人材や設備を駆使してどこまで成果が望めるか分からない。ただ経営環境からすると、「いつ頃までに、こうであって欲しい」のである。

 

しかし、それだけでは誰が何をすればよいのか不明である。活動の枠組み(課題の細分化、時期、担当)を明らかにせねばならない。これが方針展開である。

 

方針展開は、経営者自身が行っても事業部長以下の職制が行ってもプロジェクト・チームが担当してもよい。適所適材であって全員参加ではない。例えば、ある工場を大幅に自動化するには、どこを自動化するか、どの形式の自動化か、設計は誰にするか、どの業者に設計と製作を委託するか、自動化のメリットをどう判断するか、等々の検討が必要になる。

 

また、いくつかの方策案について入力(期間、投資額、投入人員等)と出力(特性値の改善効果)を明らかにして、最善の方策を選定する必要がある。最善の道を決めて確信を持つに至った時に目標を設定し、テーマストックに加える。

 

ここに「テーマストック」とは、「ゴーがかかれば、いつでも実施に踏み切れる検討済みテーマの在庫」を意味する。

 

この一連の検討活動が、方針展開の内容である。方針展開は、次に述べる「テーマストックの蓄積」が目的である。

3.2 方針展開の具体例

下の図は、活動の内容・期待する成果・時期・担当等を配分した「方針展開」である。

方針展開

3.3 方針展開の変更

方針展開は固定的なものではなく、展開を試みても途中での変更・追加・削除が頻繁である。しかも、テーマストックの蓄積が続く限り変更・追加・削除はやまない。この変更は、長期方針がすべて終了するまで継続する。

 

年度方針にも、方針展開が必要である。長期方針は研究が目的であり、年度方針は本番の実現が目的だという違いがあるだけである。

 

長期方針1

 

上の図で、上欄の「長期方針」では経営者のビジョンが示され、続いて「方針展開」が示され、テーマストックの蓄積に向けた活動が行われる。途中で「経営者の点検」が入る。これは、テーマストックの内容やレベルを経営者が点検・監視することである。

  1. もしテーマストックが期待できなければ、経営者の反省により、何らかの変更をしなければならない。例えば、担当者を交代する、外部の専門業者に委託する、プロジェクト・チームを組織するなどの簡便な手段もあれば、その分野の人材を採用・育成することもあり得る。これらを総称して「体質強化」と呼ぶ。
  2. もし、テーマストックが期待通りなら、予定した年度の年度方針が立てられます。あるいは、長期方針の時期的な指示を無視して、テーマストックの中から、異なった年度の顕著なテーマ(特に優れた手段、目標)を選ぶこともあり得る。

 

年度方針の立案にあたって、「このテーマを年度方針に組み入れよう」と選択することを「全体最善」の選定と呼ぶ。つまり、その年度の方針として「何を選ぶのが最善か」という観点で選定する。テーマストック自体が最善テーマを集めたものであるが、それはテーマごとに限った範囲内での最善であって「部分最善」と呼ぶ。

 

テーマストックは部分最善の集合であり、年度方針(年度計画)は全体最善の構築である。

4 テーマストック

4 テーマストック

4.1 テーマストックとは

4.2 方策

4.3 最善策の選定

4.4 目標の設定

4.5 テーマストックへの登録

4.1 テーマストックとは

テーマストックとは、「ゴーがかかれば、いつでも実施に踏み切れる検討済みテーマの在庫」を意味する。

方針管理の進み具合を把握するには、テーマストックを点検・観察すればよい。これが順調に蓄積されて、そこから良質なテーマ(=方策+目標)を選定できれば、年度方針は直ちに決まる。しかしテーマストックが貧弱、すなわち実施に値する方策案が少ないと年度方針は立ち往生する。この場合は企業体質が弱いのであって、経営者が反省して体質強化に舵を切らねばならない。

 

体質強化とは、
・人材の補充・育成
・アウトソーシング(外部の人材を利用)
・設備の充実
・特許の購入・実施権の入手
~などを指す。

次に、テーマストックの状況が方針管理にどう影響するか、具体的な比較をしてみよう。

  • A社:良質なテーマストックが順調に蓄積され、年度方針が順調に立てられ、改善が円滑に実施された。→ 優秀
  • B社:テーマストックが貧弱で、年度方針を立てようがない。そこで、体質強化に方針を転換することになった。→ 直ちには成果を望めないが、将来は有望である。
  • C社:テーマストックという客観的な物差しがなく、経営者に自社の体質が見えない。改善も体質教化も行われず、もっぱら体裁を繕う企業になって衰退を免れない。→ 不合格であり将来性もない。

4.2 方策

「方策」とは、具体的な問題を解決する具体的な内容を持つ手段をいう。
方策というと「省力化」とか「ペーパーレス」とか「自動化」というような言葉を挙げて、それが方策だと思っている人も結構いる。これらは「方策の種類」であって、方策ではない。

 

方針展開の後の研究の過程で、いくつかの具体策が姿を現す。その具体的な姿は、
・設計図面に表された新製品
・工程設計(QC工程表)で示された新製造技術
・専門メーカーのカタログに表された新設備
・実験室で新規に開発した工程や材料
・他企業の技術であって有償で実施権を設定できるもの

~等、いろいろなものがあり得る。いずれにせよ単なる手段の「種類」ではなく、実施可能で何らかの成果を伴う具体的な手段を指す。

4.3 最善策の選定

最善策1つの問題について、方策案が1個しかないのは望ましくない。いろいろな方策案を検討し、その中の最善を選定するのが望ましい。実施した後になった「別の方策の方がよかったか」と後悔しないようにするためだ。

4.4 目標の設定

目標の意味は → 1.3  を参照 (ブラウザの戻りボタンで戻る)
目標設定の条件は → 1.4 のを参照 (ブラウザの戻りボタンで戻る)

方策によって実現される成果がデータで裏付けられれば、目標を設定できるようになる。

 

最善策(場合によって次善策も)について入出力(投入する投資・時間、得られる成果)を明確にし、それらを目標として設定する。これは、「そのテーマを採用して実施すれば、そういう入出力になるはず」という意味を持ち、個々のテーマごとに設定する。

4.5 テーマストックへの登録

研究にメドがついたら最善策(できれば次善策も)の目標を設定し、事務局のホルダーにテーマストックとして名称・概要説明書・方策説明・設計図等・入出力の見積書・計算書等の書類一式を保管する。

 

経営陣はこのテーマストックで方針管理の進み具合をチェックして、次の年度方針をどうするか、体質改善の要否、アウトソーシング先の調査などの準備をしなければならない。

 

テーマストックに登録するテーマは、次の要件を備える必要がある。

(1) 蓋然性:
そのテーマについて、成果がデータで確実に見込まれること。失敗が許されないからである。

 

(2) 最善性:
方策は最善のものであること。あとで「別の方策の方がよかった」と後悔しないためである。テーマストックには、経営者が選択できるように、ベスト2~3の方策を登録するのが望ましい。

 

(3) 目標を設定すること。目標は、次の項目を含めること。
・入力目標=投資金額、他当社の人数、期間等。
・出力目標=成果目標、投資対効果等。

5 年度方針(短期方針)

5 年度方針

5.1 テーマストックの状況

5.2 シャープの経営危機

5.3 年度方針の展開

年度方針とは、長期方針において表明した「ビジョン・企業のあるべき姿」を実現するための「本番の活動方針」をいう。つまり、長期方針が研究開発段階であるのに対し、年度方針は本番である。

5.1 テーマストックの状況

前年度末において、テーマストックの状況が「どのテーマも目標がニーズに満たない」場合がある。これは「経営者の夢」と「現実の企業体質(企業の力)」の間にギャップがあることを意味し、長期方針の通りに各年度方針を採用することはできない。

 

この場合、その年度の方針はどうなるか?
当初の長期方針の通りに経営者の願望を実現することが重要なのではない。方針管理の最重要課題は、経営を取り巻く社外・社内の状況に柔軟、かつ機敏に対応する体制を築くことだ(敏捷に対応する経営=Agility 経営)。

  1. テーマストックが貧弱な場合
    これは、企業の力=経営資源(人材、設備等)が貧弱であることを物語る。このまま当初の方針を貫いても満足な成果となる可能性がない。従ってテーマストックの充実を待って長期方針を延期するか、経営体質の強化へと方針を転換する必要がある。例えば、人材を育成・新規採用するとか、専門業者に委託するとか、何らかの策を講じる必要が出てくる。テーマストックの観察による検討は長期方針の設定後、継続的に行うべきである。そして、打つべき手は早めに打つのがコツである。
  2. 経営環境が変化する場合
    経済情勢は世界的にめまぐるしく変化し、しかも予測は困難である。当初の方針が輸出の増大を狙ったとしても、当該年度において輸出が有利とは限らない。この場合、このまま当初の方針を貫いても満足な成果となる可能性はなく、方針を変更する必要がある。

全体最善

テーマストックが上のような状況だと、翌年度の年度方針は「原価低減」のままでよいか疑問を感じる。実行しても要求の40%にしかならないと、事前に分かっているからだ。そこで全体最善を構築する。選択肢はいろいろある。
・現在、「原価」が一番の問題だから、40%減であっても本年度の方針に加える。
・「在庫削減は検討が進んでいるから、来年度の方針とする 。
・各項目の中で、最も投資対効果の優れたテーマを1個ずつ実施する。

 

最後の選択は、経営環境の読みが困難だったり経営体質の強化が間に合わなかったりして、容易に年度方針を決めかねる場合に有効な選択である。「エイ、ヤッ!」と決めてしまうのはバクチだから、経営体質や経営環境の傾向が明確になるまで突出した方針を保留するのが賢明である。

 

年度方針の立案で重要な原理は、全体最善である。テーマストックに蓄積したテーマ(=方策+目標)はそのテーマ限りでの部分最善であって、企業全体を見渡した場合の全体最善とは限らない。例えば「原材料の在庫の削減」というテーマにおいて、一つの事業部門で考えれば大きな余剰在庫ではないが企業全体では最大の余剰在庫金額になる場合がある。そのため、年度方針の決定には企業トップが関与しなければならない。

5.2 シャープの経営危機

シャープの町田勝彦氏は、平成10年に社長に就任した。「国内で販売するテレビを液晶に置きかえる」という方針のもと、平成16年に稼働し始めた亀山第1工場の「アクオス」が大ヒットし、シャープを売上高3兆円企業に押し上げた。その後も亀山第2工場の建設を主導したが、韓国勢の安価なテレビの台頭などで液晶パネル自体の需要が低迷し、巨大な生産能力が裏目に出て在庫を積み上げ、23・24年度は2年連続で計9千億円を超える巨額赤字を計上した。一時はパナソニックの傘下に入ってピンチを切り抜けたが、平成27年現在、経営再建が頓挫し、危機が再燃した。

 

リーマンショック後、パナソニックも同じく巨額赤字になったが、プラズマテレビ撤退などの構造改革を進め、「脱家電」によるBtoB(企業相手のビジネス)へのシフトで業績のV字回復を成し遂げた。
両社はなぜ明暗が分かれたか。それには、主力事業のリストラ、将来性への投資、経営者の型という3つの要素があると言われている。

 

「液晶をとるとシャープではなくなる。液晶を除けば経営が成り立たず、新中期経営計画の達成も不可能」といわれるほどに、液晶一本柱に頼り切った体質が破たんを招いた。ここから硬直化した計画よりもAgility(軽快さ, 機敏さ)を優先することを学び取ることができる。

 

〔注〕長期方針で決めた年度方針:
長期方針で「何年後に何を実現する」と決めてあるから、各年度の方針も決まっていると誤解される場合がある。例えば下の表のように、長期方針と各年度方針が対応して、2年後の年度方針は当然そのまま「不良ゼロ」になるという理解の仕方である。

長期方針3

長期方針は、手段を深く研究する前の経営者の願望である。経営者は預言者ではないから長期方針の通り進むとは限らず、その通りに運んだらえらい失敗を覚悟せねばならない。長期方針の通りに事を運んだように発表する企業が跡を絶たないが、それは方針通りに進んだように装ったものである。

 

しかも、長期方針で定めた年度になってから不良低減の研究を始めて、同年中にそれを実現しようとしてもほとんど進まず、翌3年度計画で反省してお茶を濁して終わりである。そして、翌年以降も同様に失敗と反省を繰り返えす。体裁のための方針管理なら、それで足りる。

 

以上は、テーマストックの概念を持たず目標の意味を取り違えた主観説に特有の問題である。長期方針で「2年後に不良ゼロを実現せよ」とは、正しくは、2年後に不良ゼロの年度方針が立てられるように「今から研究を開始せよ」という意味である。また、もし2年後に実現しそうになければ、体質強化に切り替えるか他のテーマに変更するかも知れないという意味である。

 

従って、長期方針で予定したことが必ずしも各年度方針になるとは限らない。各年度方針は、その時点で最も適切なものを選定する(全体最善)。その場合に中心的役割をするのがテーマストックと経営者による点検である。

4.3 年度方針の展開

長期方針の展開で定めた業務分担は、そのまま年度方針に引き継がれる場合もあれば、年度方針で新たに定める場合もある。

 

例えば、長期方針で新製品を研究開発した製品設計課が、年度方針でも引き続き製品設計を担当するかも知れない。あるいは、長期方針では製品開発かが担当し、年度方針では製品設計課が担当するかも知れない。また、長期方針では存在した試作の担当部署が、年度方針では外部の協力工場になるかも知れない。

 

このように、担当がいろいろ入れ替わるので、原則、年度方針の方針展開を新たに行うのが通常である。

 

(以上)