< FTA 解析:事故発生の頻度計算 | 客観説TQM
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fta-catch「故障の木解析」とは、想定した重大事故の発生頻度を事前に解析する手法である。

 

想定した重大事故を「トップ事象」として最上位に配置し、要因事象を下に展開し、さらに必要に応じて下に展開して発生頻度を見積もる「基本事象」を最下位に配置した樹状のFT図を作成し、基本事象の頻度からトップ事象の頻度を計算する手法。

 

FTA(Fault Tree Analysis)は、将来起こり得る事故の頻度を見積もる手法であって、過去の事故の原因を追究する手法ではない。レジリエント・メディカルというサイトではFTAを事後解析の手法と説明しているが、全くの間違いである(同旨:久米均東大教授)。

緑線

目 次

1 FT図の作り方

2 論理記号

3 FTAの特徴と対策

・総枠設定

・頻度見積

4 役に立つ事例

・ポカミス対策

・講習会の対策

5 支障が出る場合

・頓挫する場合

・修正可能な場合

第1章 FT図の作り方

出張講習のご案内

簡単な具体例について説明しよう。
A君は、数日後に客先に出向いて重要なプレゼンを行う予定がある。(不可抗力の場合は止むを得ないとして)A君自身の失敗で定刻にプレゼンを開始できない事態にならぬよう、対策を打ちたい。

 

パソコンを持参するが、電源、マウス、パソコン本体を一括して「年に1回」ほどの故障が見込まれる。当日の朝に自宅から出発すると、電車の遅延等で遅刻の恐れが「月に1回」ほど見込まれる。
要因と考えれれる事象(event)をFT図に表すと、下図の通り。

fta1頻度計算

「月に1回」は、「年に12回」と換算する。 「年に1回」を「年に1日」と単位を変更した理由は、1日に2回起きる事象ではなく、1回=1日とみなし得るからである(起きる日をブラックデーとした)。

「電車遅延」と「パソコン故障」のいずれが起きてもプレゼンに失敗するから、「OR」の論理記号で結合して「頻度計算は足し算」であることを示す。

計算すると、「年に13日」のブラックデーがあることが分かる。1年の稼働日を260日とみなして、確率は「0.05」となる。この確率では「20回に1回の失敗」を覚悟せねばならず、やや不安だ。そこで対策を考える。

fta対策
対策:
ⅰ) 「電車遅延」の対策として、訪問先に徒歩で行けるホテルを予約して「ホテルに前泊」する。
ⅱ)パソコンは2台用意して、1台は持参し、もう1台はホテルに送り、当日は2台持参する。

対策後の計算

対策後の計算をする。
「電車遅延」は無関係となるので削除する。

「パソコン故障」は、パソコン2台が両方とも故障する頻度だから論理記号は「AND」になり、掛け算となる。
その結果、確率は10万回に1~2回程度に減少する。

第2章 論理記号

FT図において使用する図形を論理記号という。論理記号には、事象の性質を示すものと、頻度集計の仕方を示すものがある。下に、主な倫理記号の一覧表を示す。

 

この他にもいろいろな記号はあるが、実用上はこの一覧表で間に合う。
例えば「制約ゲート」という六角形の記号がある。この記号中に記載した条件Xが満たされることを条件に事象Yが起きれば上位事象が起きるという意味である。それは結局、条件Xを事象Xとみなして、その頻度とYの頻度の掛け算としてANDゲートを用いればよい。

第3章 FTAの特徴と対策

3.1 総枠設定

上に示した事例のように、FTAはトップダウン・アプローチである。すなわち、社長が1人で、下向きに次第に数を増やしながら一般社員まで展開する。このことは、「気が付いた事象しか列挙しない」という列挙漏れを起こしがちでなアプローチである。
どうしたら列挙漏れを防げるか? 一つの方法は、「総枠設定」と呼ばれるものだ。

 

下の図で、「プレゼン事故」がトップ事象である。
基本事象をもれなく列挙するために中間事象として5Mを列挙し、それぞれの基本事象を導いて頻度を評価する。
このように、展開すべき要因事象の抜けを無くすために「これ以外にはない」という総枠を中間事象として設定して、その中で要因事象を列挙する。

 

ただし、要因事象が全て分かっている場合は、総枠設定は不要。本件では総枠として5Mを使っているが、これに限らない。要するに「これで全部だ」と言えるカテゴリーを並べればよい。

総枠設定

 

・「材料」はこのプレゼン会議というプロセスで「処理を受けるもの」、すなわちプレゼンという加工を受けるのは顧客である。顧客に何か不都合な事態が起きてプレゼンが開催できなくなるのは問題にする必要はないから除外する。

・「方法」はプレゼンの仕方であるが、影響を受けることは考えられない。

・「機械」は電車の遅延、パソコンの故障の他にも「プロジェクターの故障」が考えられるが、これは顧客のプロジェクターだから、ここでは問題にする必要がない。
また「停電」も考えられるが、これはプレゼンを行うA君の責任ではないので除外する。

・「測定」は情報の収集であるが、電車の遅延情報を入手しても遅延防止に役立たないから、これも除外する。

「人」はA君自身であり、A君が急病で出張できなくなる事態があり得る。これは顧客に迷惑がかかるので、事前に代替者を用意しておくのが望ましい。

総枠設定をすると、このような要因事象の漏れを防ぐのに役立つ。

3.2 頻度見積

基本事象の頻度見積もりは、本来は過去のデータに基づくべきだ。「この事象は、過去の記録によるとほぼ5年に1回だ」というようなデータがあれば一番都合がよい。ところがFTAをやろうとするケースで、そういう正確なデータはないのが普通である。ただ、正確ではないが「およその見当がつく」場合が多いので、これを上手に利用して見積もる方法を考えよう。

 

ある事象の頻度を見積もるとき、
・「月に1回」では多すぎるし「10年に1回」では少なすぎるなら、「年1回」と見積もる。
・「日に1回」では多すぎで「年1回」では少なすぎるなら、「月に1回」である。

そして、「年に3回」というような見積は行わない(FTAが終了した後の数年の実績を見て調整する)。

 

すると、~
・1年に1回と見積もるのが妥当な場合が多い。例えば、「作業のうっかりミス」、「機械類の故障」、「人の急病」、「震度5程度の地震」など。
・10年に1回と見積もるのは、「停電」、「震度7以上の地震」、「近隣の火災」など。

 

次のように「年1回」を基準にして、「月1回」、「10年に1回」などの頻度を系統的に表現することができる。

頻度見積

以下、これを利用した事例を吟味していこう。

第4章 役に立つ事例

4.1 ポカミス対策

ある工場で、製品の品種によって「通常梱包」と「冷凍梱包」の区別があり、冷凍梱包には温度記録計を同梱する必要がある。

 

ある日、作業者が冷凍梱包に必要な温度記録計を入れ忘れて出荷し、クレームとなった。
原因として、次のようなことも考えられる。
(1) 品種別に作業を行わず、同時に作業していた。
(2) 慣れている作業で思い込み作業してしまった。

 

しかし、品種別に作業をするというのは実務上困難があり、作業者の思い込みを防ぐ対策も難しい。
そこで、簡単なFTAによる対策を考案しよう。

ポカミス対策

(1) 従来、温度記録計は梱包作業者が準備したが、出荷担当者が準備するように変更する。
(2) 梱包作業者は冷凍梱包をする時に、温度記録計を出荷担当者のところに取りに行く。

 

このようにすると、梱包作業者が温度記録計を取りに行くのを忘れる頻度は「年1回」ほど、出荷担当者が準備を忘れるのも「年1回」ほどと見積もることができる。これらのミスは同時に起きて事故になるから「ANDゲート」で結合し、頻度の掛け算になる。その結果、「260年に1回」という桁違いの頻度低減が期待できる。

 

このやり方の優れた点は、2名で同じ検査をするいわゆる「ダブルチェック」とは違って、誰も検査をしないことである。敢えて検査をしなくても、自然に異常に気が付くようになっている。
事故になれば人命に関わるようなケースならこの程度の対策では不足かも知れないが、通常のクレーム対策としては十分だと考えられる。

4.2 講習会の対策

客観説TQM研究所が開催する「FMEA/FTA講習会」について、実際に実施している対策を紹介する。

 

当日になって「開催できな事態」が起きると、非常に困ったことになる。受講者は遠方から会社を休んで来られて、ホテルに泊まる方もいる。いざ講習会に来てみると、講師が到着していないとか、パソコンか故障して開催できないとか、そのような異常事態が発生して中止になると取り返しがつかない。不可抗力ならやむを得ないとして、何らの対策もせずにこのような事態になることは回避しなければならない。

 

そこで、実際に、次のようにしている。

講習会現状

 

・総枠設定に5Mを採用する。
・「材料」(受講者)が遅刻しても講習会の進行に支障がないので除外する。
・「方法」と「測定」も除外する。
・「機械」と「人」の要因事象を図のように展開する。
・列車異常は「月1回」、PC関係の故障や講師の病気は「年1回」、停電は「10年に1回」とする。
・頻度を見積もって集計すると、「年に17.1日」のブラックデーがあることが分かる。
これはかなり危険な状態である。

 

そこで次の対策を講じた。

講習会対策

 

・「列車異常」は、講習会場の近隣のホテルに前泊して「頻度ゼロ」にする。
・「PC関係」の故障は、全て2個用意して、頻度×頻度の計算をする。
・「プロジェクター」は会場に複数あるので、PC関係と同じに扱う。
・「停電」は自家発電(故障頻度:年1回)を備えた会場を選定する。
・「講師の病気」は事務担当(病気頻度:年1回)が受講者に電話連絡する。
・図で「同」とあるのは、「年1回×年1回」の計算になることを示す。

その結果、「50年に1回」という「まぁまぁ」の結果となった。この状態で数年の実績を見て、個々の頻度見積を修正し集計をやり直せばよい。

第5章 支障が出る場合

5.1 頓挫する場合

次の場合に、FTAの実施に支障が出て、役に立たない。

1) 頻度の見積ができない場合
トップ事象の下に展開した基本事象の中に頻度不明なものが含まれると、そこでFTAは頓挫する。

2) 基本事象の有益な対策がない場合
ある機器の故障の要因事象に対策を講じる費用が、その機器を新規に購入する費用よりも高額である場合、FTAはそこで頓挫する。

5.2 修正可能な場合

基本事象の方が重大な場合に、どう対処すべきか? トップ事象よりも重大な基本事象は、一般に頻度が低いから、除外してFTAを継続することができる。以下に事例を示そう。

 

風力発電所の「回転翼の破損」をトップ事象に置いて、その頻度を計算する場合を想定する。

回転翼

 

・トップ事象直下の総枠の左部分に「内部要因」を示す。これは風力発電機の内部要因であるが、◇記号で展開を保留している。
・総枠の中央に「共振」とあるのは、回転翼と風の共振である。
・総枠の右端は「外部要因」である。
外部要因を展開すると、一番下の基本事象が列挙される。

回転翼

これら基本事象をみると、
・トップ事象よりも重大な事象
・対策に過大な費用を要する気象
・頻度見積ができないもの
を含む。しかし、いずれも頻度が非常に低いことが分かるので無視する。

 

「渡り鳥の衝突」と「台風」は以上に該当するかどうか、きわどい事象である。しかも現実に起きているのに、これらに完全な対策を講じている事例はないようである。おそらく頻度・対策費・対策による発電効率の低下等を総合判断したものと思われる。

(以上)